2013年04月19日

電王戦第5局中継予定

土曜日は電王戦第5局三浦八段―GPS将棋戦。
いよいよ最終戦です。

ニコニコ生放送では屋敷九段と矢内女流四段のコンビで解説です。

棋譜中継は日本将棋連盟モバイル
電王戦公式ページ

最終戦にふさわしい対局PVはこちら(金曜日朝現在、第4戦の振り返りはまだ入っていませんでした)

電王戦についての当ブログの連載記事はこちらから。
第2回電王戦5 〜これからのコンピューター将棋〜

ここまで人間側から見て1勝2敗1分。長かった戦いもついに明日でフィナーレを迎えると思うと感慨深いものがあります。
A級棋士がどういった戦いを見せるか、今まで以上に内容にも注目が集まります。
素晴らしい勝負を期待しています。

最後の大勝負、ぜひお楽しみください。


それではまた
posted by 遠山雄亮 at 09:26| Comment(1) | TrackBack(0) | 電王戦 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年04月15日

電王戦第4局

電王戦第4局塚田九段―Puellaα戦は持将棋となり、規定により引き分けとなりました。
「第2回将棋電王戦」第4局、大熱戦の末、持将棋引き分けに(日本将棋連盟のお知らせ)

コンピューターに猛攻を受けた塚田九段は、ひたすら入玉を目指しました。
しかし詰みからは逃れたものの駒を取られ過ぎて絶望的な状況に。
そこから塚田九段が猛烈に追い上げて駒を回収し、230手という死闘の末、引き分けに持ち込みました。

あの絶望的な状況で諦めずに前を向き、執念で追い詰める姿には迫力がありました。
また終局直後には感極まって言葉に詰まるシーンがありました。
それはいずれも、団体戦を引っ張るという責任感、そして約1年にわたる準備の中で、決して表には見せない努力や葛藤や不安があったからでしょう。
私もさわり程度ですが勉強会等でその様子を見てきたので、感じるところが多くありました。
またそれらを全て生で観ることが出来たのは、ニコニコ生放送の良さが出たとも言えそうです。

冷静な見方では、入玉というコンピューターの弱点をついても、引き分けに持ち込むのが精いっぱいだった、とも言えます。
コンピューターがミスを出し始めたのは最後の最後、点数勝負になってからで、そこまでは複雑化した状況下でも安定した強さを示していました。
あの持将棋直前の姿に本質を見出してはいけないのです。

さて電王戦も今度の土曜日4月20日(土)に最終戦を迎えます。三浦八段ーGPS将棋戦。
対局PV
電王戦公式サイト

人間側の1勝2敗1分で迎える最終戦。
皆さまもどうぞご注目ください。


それではまた
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2013年04月12日

電王戦第4局中継予定と第3局△6六銀について

土曜日は電王戦第4局塚田九段―Puellaα戦

ニコニコ生放送では木村八段と安食女流初段のコンビで解説です。
棋譜中継は日本将棋連盟モバイル
電王戦公式ページ

未来を志向した対局PVはこちら

ぜひご注目ください。
電王戦についての当ブログの連載記事はこちらから。
第2回電王戦5 〜これからのコンピューター将棋〜

ところで電王戦第3局は船江五段がツツカナに逆転負けを喫しました。
全局の棋譜はこちらから
そのきっかけといえるのが94手目の△6六銀。


2013.4.6船江―ツツカナ.gif


この手に対する評価は各地でされていますが、私としてはコンピューターが放った勝負手として注目しています。

ここは先手が勝ち。当時の検討、局後の感想戦で出した結論。後手は何を指してもまずい場面です。
△6六銀では△6四銀が普通ですが、▲2七角△5五銀▲5七角とされると負けとなります。
この手順は先手としてもこう指すよりなく、その後も平易な手順なのでおそらく先手がまもなく勝ったでしょう。

しかし△6六銀にも▲2七角とすれば△5五銀よりなく(金や銀を先手に渡すと詰みがあるので他に指す手が無い)、以下▲5七角で先手がハッキリ勝ちでした。
とはいえ△6六銀ならば▲同竜が後の詰み(△5八金▲同玉△3八角成に▲1五銀以下の詰み)をみてこう指したくなるもの。
人間相手なら△5八金ときて、以下詰まして終了という呼吸でしょう。
しかし諦めの悪いコンピューターに延命されて決着が先延ばしとなり、結果的に最後の逆転につながりました。

実はツツカナは△6六銀の場面では自分の勝ちと読んでいました。
▲同竜に△5八金▲同玉△3八角成と進め、自玉に詰みなし相手玉に受けなし、というもの。
しかし実際は△3八角成に▲1五銀から詰みがあります。
▲6六同竜の局面で自玉の詰みに気が付いたツツカナは咄嗟に△4二歩と受け、結果的に延命に成功したのです。

△6六銀は▲2七角でも▲同竜でも後手がダメなのですが、相手を迷わせる効果がありました。
コンピューターが意識して指したわけではありませんが、将棋の終盤の複雑さゆえに産まれた偶然性による勝負手だったのです。


事前の予想で書いた中では
・競り合いにならない
・コンピューターは勝負手を放てず、ずるずる負ける
という点が大きく外れています。

予想不能の電王戦、残り2局もお楽しみください。


それではまた
posted by 遠山雄亮 at 11:10| Comment(3) | TrackBack(0) | 電王戦 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年04月07日

電王戦第3局

電王戦第3局はツツカナが船江五段に勝って、コンピューター側の2勝1敗となりました。
コンピュータソフト、現役プロ棋士に連勝!(日本将棋連盟のお知らせ)

3局続けてコンピューターが先に攻め、人間が反撃する展開に。
ニコニコのボンクラーズの評価ではコンピューター寄りでしたが、実際は人間側にやや寄っていたように思います。

そんな中で船江五段が抜け出し、一時は勝勢になりました。
ただリードは大きいながらゴールは遠く、持ち時間も切迫している状況。
人間側も苦しい流れの中、ミスが出て逆転してしまいました。
とはいえコンピューターにもミスが出て、もしかしたら再逆転していたかもしれません。
しかし最後は1分将棋の中で船江五段は寄せ切ることが出来ませんでした。

観戦する側からするとジェットコースターのような展開で、面白い内容。
ツツカナにはいかにもコンピューターという手が少なく、人間同士の戦いを見ているようでした。
勝負という観点では人間の最大の弱点が出てしまったように思います。


さて第4局は4月13日(土)、塚田九段―Puellaα(旧ボンクラーズ)戦です。
対局PV
第2回電王戦公式サイト


それではまた
posted by 遠山雄亮 at 23:15| Comment(2) | TrackBack(0) | 電王戦 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年04月05日

電王戦第3局中継予定、関連番組情報

土曜日は電王戦第3局船江五段―ツツカナ戦。

ニコニコ生放送では鈴木八段と藤田女流初段のコンビで解説です。
棋譜中継は日本将棋連盟モバイル
電王戦公式ページ

師弟愛が泣けると評判の対局PVはこちら

ぜひご注目ください。
電王戦についての当ブログの連載記事はこちらから。
第2回電王戦5 〜これからのコンピューター将棋〜

今日金曜日は20時からニコニコ生放送で関連番組も放送されます。
石田純一さんとインパルス板倉さんがツツカナに飛落ちで挑戦し、勝てば100万円という企画です。
普通の飛落ちより条件がいいので、チャンスは十分あると思います。
番組はこちらから

こちらもご注目を。


それではまた
posted by 遠山雄亮 at 10:57| Comment(1) | TrackBack(0) | 電王戦 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年03月31日

電王戦第2局

電王戦第2局はponanzaが佐藤慎四段に勝ち、1勝1敗となりました。
現役のプロ棋士が公式の場で負けたのは初めてです。
「ponanza」、現役プロ棋士に史上初めて勝つ!

以前の連載に書いたように、非公式には対戦が多くありました。
その中では当然勝ちもあれば負けもあったわけで、勝負の場が設けられれば避けられないことでした。

形勢は「佐藤→ponanza→佐藤→ponanza」と揺れ動きました。
コンピューター将棋の強さが見えると同時に、中盤のねじり合いや終盤の競り合いといったところで人間のほうが勝っていた所も多くありました。
最後は疲労と時間切迫が人間側の致命傷になったように見えます。
コンピューターの一番の長所によって負かされた、そんな一局でした。

将棋界にとって意義のある、そして自分にとっても意義のある、忘れられない一日でした。
今回の電王戦に深く身を置く者として、今将棋界に一つの転換期が訪れているのではないか、そんな予感を抱いています。


さて第3局は4月5日(土)、船江五段―ツツカナ戦です。
対局PV
第2回電王戦公式サイト


それではまた
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2013年03月30日

電王戦第2局中継予定

土曜日は電王戦第2局佐藤慎四段―ponanza戦。

ニコニコ生放送では野月七段と山口女流のコンビで解説です。
棋譜中継は日本将棋連盟モバイル
電王戦公式ページ

かっこいいと話題の対局PVはこちら
対局者と開発者が対象的で印象に残ります。

佐藤四段はブログを書いていて、対局前日の素直な心境をつづっています。
明日は対局

ぜひご注目ください。
電王戦についての当ブログの連載記事はこちらから。
第2回電王戦5 〜これからのコンピューター将棋〜


それではまた
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2013年03月23日

電王戦第1局

電王戦第1局は阿部光四段が習甦に勝ち、まずは人間側が1勝としました。

内容的には、コンピューター将棋の仕掛けを阿部四段が咎め、丁寧な受けから早い反撃で勝ち切りました。
パーフェクトと言っていい内容で、素晴らしい将棋でした。

終局後の記者会見は将棋会館で棋士数名と観ていました。
その中で阿部四段が
「順位戦が終わった翌日(3月6日)からほぼ毎日持ち時間4時間で指していた。普通にやると1日が終わるので、早起きをして1日に2局指すこともあった。」
という趣旨の発言があり、その努力ぶりに観ていた棋士全員の背筋が伸びました。

阿部四段は記録的なスピードで四段昇段を果たしていて、豊かな才能は間違いありませんが、見えないところでの努力のすごさを垣間見た気もしました。
この将棋もある程度想定したものであったようで、事前の準備の部分でパフォーマンスを100%以上に持っていったようにも感じます。


第2局は来週土曜日3/30(土)に行われます。
佐藤慎四段ーPonanza戦。
PV
第2回電王戦公式サイト


それではまた
posted by 遠山雄亮 at 23:26| Comment(3) | TrackBack(0) | 電王戦 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年03月20日

第2回電王戦5 〜これからのコンピューター将棋〜

以前の記事
第2回電王戦1 〜全対局と観戦方法について〜
第2回電王戦2 〜プロ棋士とコンピューター将棋の接点〜
第2回電王戦3 〜コンピューター将棋が私より優れる点、劣る点〜
第2回電王戦4 〜本番の対局について〜

今回が連載の最終回。6以降は電王戦が終了した後に書きたいことがあれば加えていこうと思います。


電王戦はドワンゴ社に主催いただいています。
かっこいいPVを作るなど盛り上げに尽力いただき、新たなファンの取りこみに効果がありそうです。
社長の川上さんは先日の羽生三冠との対談で
ニコニコ動画の3大コンテンツは、アニメ・政治・将棋

という趣旨のご発言をされていて、将棋に対するご理解を感じて嬉しかったです。

ちなみにお隣囲碁界には電聖戦が誕生し、3月20日(祝)にその第1回が行われます。
第1回『電聖戦』開催のお知らせ


こうした対戦形式も勿論面白いですが、このまま勝ち負けを争って終わるのはもったいないとも思います。
将棋はただのゲームではなく、相手とのコミュニケーションツールでもあります。
コンピューター将棋とも、どこかのタイミングで手を携えていきたいです。

コンピューター将棋が力を発揮するのは、多くの人へ将棋を学んでもらう環境作りに於いてだと考えています。
現在はプロ棋士女流棋士含め約200名程度。既存のファンを満足させるにはギリギリ足りていると思いますが、もっと裾野を広げようという時には不足しています。
特に世界への普及を考えれば、言語の問題も容易に越えられるのでコンピューターの力を借りるのは非常に有力な手段です。

コンピューター将棋には相応の実力があるので、適切なアドバイスを出すことは現状でもある程度出来ます。
将棋を覚えるカリキュラムを載せ、強さを加減することで初心者のよき対戦相手にもなれば、将棋を覚えるのがとても楽になります。
これがアプリでスマートフォン・タブレットに搭載できたり、WEBで手軽にできるようになれば、普及の一つの起爆剤となるでしょう。

指導方法の蓄積は既に将棋連盟が持っているので、その点は問題ありません。
プロ棋士と才能豊かな開発者が手を組めば、いいものが出来そうでワクワクします。
あとは将棋連盟側とコンピューター将棋側が同じ目的意識を持てるかどうかにかかるでしょう。

出場棋士や開発者側からも、記者会見等でこういう意識を持っていることを感じられるシーンがありました。
土壌はすでにあるので、あとは実現に向けて進められるか、という段階だと思います。


人間とコンピューターは主従関係にあるのではなく、共に生きる存在です。
互いが相互の長所を取り入れるようになる時、それは様々な夢が現実となる未来です。
夢のある未来は、人の心を惹きつけます。
私としてはそういう未来を目指し、将棋という枠の中で少しずつ歩みを進めていきます。


毎回長文となってしまいましたが、ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
さらにコンピューター将棋をについて知りたい、という方は下記リンク先をどうぞ。
第2回将棋電王戦(詰将棋メモ)

それでは23日(土)から始まる第2回電王戦をどうぞお楽しみください。


それではまた
posted by 遠山雄亮 at 10:53| Comment(2) | TrackBack(0) | 電王戦 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年03月19日

第2回電王戦4 〜本番の対局について〜

以前の記事
第2回電王戦1 〜全対局と観戦方法について〜
第2回電王戦2 〜プロ棋士とコンピューター将棋の接点〜
第2回電王戦3 〜コンピューター将棋が私より優れる点、劣る点〜


今回は電王戦本番の対局について書いていきます。

大きなポイントは双方がどこまでポテンシャルを出せるかということです。
特に人間が一局の将棋を通じて100%のポテンシャルを出すのは大変です。
コンピューター将棋はよほどのことがなければ100%に近い状態を保って一局を終えることが出来ます。

そこでプロ側は事前の準備でポテンシャルを上げることを狙うでしょう。
これは実際の公式戦でも行う、いわば対局への当然の準備というところです。
事前の研究がうまくいき、自分の得意な形でかつ相手の苦手な形に持ち込めば、戦いを有利に進められます。

塚田九段・三浦八段のタイトル経験、他の3名の若さの勢い、それが100%を超えるポテンシャルを引き出すかもしれません。
そういう未知の可能性は人間側にあると思います。

ちなみに先日、GPS将棋に勝ったら100万円という企画があり、(プロ棋士、奨励会員、女流棋士は参加不可)人間側は多くのアマ強豪が集まりましたが3勝(105敗)しか出来ませんでした。
大差ですが、出せるポテンシャルは人間側がかなり低い状況だったので、ある程度やむを得えない結果でもあります。
ニコニコ生放送の中継を見ていた限りでは、思っていた以上に人間側が中終盤で有利になるケースが多かったです。
しかし100万円のプレッシャーは想像以上のようで、実力からすると信じられない逆転負けを喫する場面を多く観ました。
これが10万円だったら10勝くらいしたと思います。10万円と100万円の違いは普通の方なら分かるでしょう。そういえば勝った一人は生粋の勝負師でした(笑)


コンピューター将棋側も100%を少しでも上回れるよう、必死にチューニングをしているでしょう。
ハード面はすでに5台とも決まっているようなので、あとはソフトの微調整でしょうか。
序盤戦が苦手なことは周知の事実なので、いかに不利にならないで中盤に持ち込めるか、作戦を練っている陣営もあると思います。


勝敗は全く予想がつきません。期待して読んでいた方には申し訳ないのですが。

決着の仕方は一つ予想があります。
互いの棋風が噛み合わないので、終盤まで互角でいかずにわりと早い段階で差がつきそう、ということです。
コンピューター将棋が負ける時は、形作りの概念が無いので解説者が言葉に詰まるような内容になりそうです。開発者の設定次第でもありますが。
プロが負けるパターンとしては、中盤で意表を突かれてミスを出し、そのままミスを重ねて挽回不能になるというのが予想されます。
持ち時間が長いこともあるので、中盤で有利になったほうがそのまま押し切りそうです。大きな逆転はないと思います。

入玉はコンピューター将棋の有名な弱点ですが、それを最初から狙って指す棋士がいるかは分かりませんし、簡単なことではありません。
入玉模様が人間側に有利に働くことを活かし、そうなりやすい作戦を採る、ということは考えられます。
普通にやると相入玉の点数勝負は1000局に1局程度しか出ないので、今回たまたまそれが出る確率は低いとみています。


この対戦で1回でもプロ側が負ければ、それは大きなニュースとなるでしょう。
現役のプロ棋士がコンピューター将棋に負けたことは公式では一度もないからです。

願わくばあまりネガティブな方向には行かないで欲しいです。
コンピューター将棋が勝つことで将棋というものの価値が落ちることはありませんが、必要以上に騒がれて将棋界への興味が削がれるのは危惧するところです。
これまでの将棋連盟の取り組みを振り返ると、そういうことにはならないと思ってはいます。長い間新聞社はじめ多くの方々にプロの勝負を盛り上げていただいていますし、私自身もネットモバイル中継を充実させてきた一員として自信はあります。
ただ世間の風は移ろいやすいもの。心配はあります。
勿論プロ側が圧倒すれば杞憂に終わることです。


どうなるかは分かりませんが、熱い戦いとなって今まで興味の薄かった一般の方にまで将棋を訴求出来れば何よりです。
そういうキッカケになる可能性は高いとも思います。


それではまた
posted by 遠山雄亮 at 20:48| Comment(1) | TrackBack(0) | 電王戦 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年03月18日

第2回電王戦3 〜コンピューター将棋が私より優れる点、劣る点〜

以前の記事
第2回電王戦1 〜全対局と観戦方法について〜
第2回電王戦2 〜プロ棋士とコンピューター将棋の接点〜

今月号の将棋世界、今週号の週刊将棋にも電王戦の特集が組まれています。
そちらもぜひご参考ください。


さてコンピューター将棋は人間の指す将棋とは随分違います。
最近は棋譜を多く学習させ、そこから評価関数・指し手を導き出すソフトが多いのですが、それでも違うと思わされます。

実力はどうなのか、尺度が難しい問題ですが、自分を基準として大きく上や下に振れてはいないでしょう。
自分より優れていると思う部分もあれば、ここは自分のほうが強いなと思う部分もあります。
今回はプロからみた、自分より優れている所と劣っている所を書いていきます。
あくまで私見で、他のプロが見るとまた違う部分があるかもしれません。


☆優れている点
・常に100%の力が出せること
これは本当に羨ましい。
人間は体調や精神状態で大きくパフォーマンスを下げることがあります。
またPC画面に向かうのと盤に向かうのではパフォーマンスが随分と違います。

・終盤の見切り
人間と違って震えることや先入観が一切ありません。
例えば下の図。ボンクラーズ特集で取り上げた図です。

2013.3.18電王戦1.gif

ここから△4四角▲同馬△5八と!と進みました。
△4四角は▲2二金からの詰めろを消した手。
▲4四同馬も普通ですが、そこで馬を取り返さないのは驚きです。角を合わせて取られたら取り返す、というのはセットになっていますから。
とはいえ▲4四同馬の局面は冷静にみれば詰めろではないので、△5八とは確かに好手です。
先入観もなく、震えも一切ないこの手順。人間にはなかなか出来ません。

・ゴチャゴチャした中盤戦
プロは基本的に定跡をベースにして土台があり、それに沿って指し手を決めています。コンピューター将棋はそれが出来ない分、全て読みでカバーしてきます。
コンピューター将棋は相当の手を読むことが出来るので、読みの量では人間が勝てる見込みが薄いです。特にハードの性能によっては桁外れの手を読むことが可能です。
そうなると定跡から大きく外れて、多くの読みが求められる中盤戦になると人間より強いでしょう。
ただし直観で正解を探り当てることが容易な局面ではミスを犯す可能性は人間のほうが低いです。


☆劣っている点
・序盤戦
序盤戦は間違いなくプロが勝る部分です。
定跡形で結論が出ている形にコンピューター将棋が飛び込む、というのは人間vsコンピューター将棋でよくあること。

例えば図。将棋倶楽部24でボンクラーズが指していた時に話題になった局面。

2013.3.18電王戦2.gif

角換わりで詰みまで研究されている形で、これでボンクラーズが何度も負けました。
後手の手番で自玉は必至なので詰ますよりないですが、先手玉は詰まないと結論が出ています。

私もコンピューター将棋と指していると、定跡通りで勝ったり不利な定跡に飛び込んでくることは多くあります。
ただし人間は忘れるので、多くの定跡・棋譜を事前に入力してあるコンピューター将棋の方が有利に働くケースもあります。

また序盤で構想を立てるのもコンピューター将棋が苦手とするところ。
私見では飛先交換に無頓着だと思います。他にも色々あるでしょう。
とはいえこの点は徐々に解決されることでもあると思います。

・勝負手がはなてない
点数で局面を管理して指し手を決める以上、相手が間違いやすい手を選んで勝負手をはなつということは出来ません。
もし相手が間違わないと差が開いてしまうからです。
必然的にじり貧の手を選んでただの延命を行い、勝機の全くない展開になることが多くあります。
ただし差が大きくない時は、自爆をしないので人間側がじれて逆転を許すケースもあります。

・終盤は決して完璧ではない
コンピューター将棋が終盤で強いのは間違いがないのですが、勿論悪手も指します。
これも以前の放送で使った図

2013.3.18電王戦3.gif

後手の手番。形勢は後手優勢ですが、▲1三銀からの詰めろがかかっています。実戦は△2四歩と受けましたが、▲1三銀からトン死しました。
最初の詰めろは15手詰み、実戦は25手詰み。長い手数の詰みに弱いところがあるようです。
人間からすれば読まなくても詰む形ですが、コンピューター将棋は律義に様々な手を読み、長い手数の詰みを見落とすのです。
ただし短い手数(9手くらい)の詰みを見落とすことはほぼ無いです。
人間のほうが先入観や筋に無い手でウッカリする、ということがあります。

他にもゼットの感覚が無いので、絶対詰まない穴熊に距離感を間違えてコンピューター将棋が逆転負け、というケースも見たり指したりしています。
一見穴熊に強そうですが、手が読みやすいので人間のほうに分があるのかもしれません。
渡辺竜王―ボナンザ戦も、穴熊の距離感を間違えてコンピューター将棋が負けた一局でした。


人間がこの弱点を意識的につくことが出来れば、相当負けないでしょう。
ただしその「弱点を意識的につく」というのを一局通じて実行するのは大変なことで、私には出来ません。電王戦は長時間の持ち時間ですし準備も相当でしょうから、もしかしたら出来るかもしれません。やってみないと分からないところです。

長くなりましたが、コンピューター将棋には人間とは全然違う特徴があります。
少しでもコンピューター将棋への理解が深まるお手伝いになれば嬉しいです。
次回は電王戦本番の対局について。


それではまた
posted by 遠山雄亮 at 17:35| Comment(3) | TrackBack(0) | 電王戦 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年03月17日

第2回電王戦2 〜プロ棋士とコンピューター将棋の接点〜

以前の記事
第2回電王戦1 〜全対局と観戦方法について〜


私は棋士の中でコンピューター将棋については詳しい方だと思います。
プロ棋士の中には指したことがない人も多く、詳しい人は少数でしょう。
漠然としたイメージで語られることが多いことからも伺えます。

私は以前から研究の中で詰みを中心にコンピューター将棋を活かしていて、対戦も多くしています。
特に電王戦の第2回が決まってからは、随分多く対戦しました。
感覚を掴むには自分が指すのが一番です。
フリーでDLできる強豪ソフトは全て試し、特にGPSとボナンザとは10秒将棋や指定局面戦などでかなり指しました。
また以前、将棋倶楽部24にコンピューター将棋が居た時期があり、その時にも密かに何局か指しました。

さらに一昨年末にニコニコ生放送で
日本将棋連盟モバイル〜驚異の高レーティング!対局ソフト「ボンクラーズ」を遠山雄亮五段が徹底解剖
という番組に出演し、その時にボンクラーズ(現Puella α)の将棋を500局近く調べたこともあります。


他の棋士では、まずは飯田六段。ご自分で開発に携わり、今は現役を休場して北陸先端科学技術大学院大学教授をされています。
また有名なのは勝又六段。仕組みレベルから説明できる棋士は飯田六段以外では勝又六段しかいないと思われます。開発者とも親交が深いようです。

研究に活かすという意味では、詰みの有無に用いるのは一般的になりつつあります。
ただどこまで活かすかは人によるようで、若い棋士が多用しているイメージもありますが、聞く限りではそれほどでもないようです。


棋士とコンピューター将棋の対戦は公の場では禁止されているので、その勝ち負けが公開されることはありません。
ただし匿名の棋士vsコンピューター将棋という対戦は実はかなりあります。
一つは私も密かに指した、将棋倶楽部24での対戦。
もう一つは「将棋ウォーズ」アプリでのPonanzaとの対戦です。

このPonanzaとの対戦については関係者内で話題になることが多く、Ponanzaと指すために将棋ウォーズを指す棋士もいるようです。
現在はPonanzaが将棋ウォーズ内で人間と対戦しているのを観戦するページがあります。
将棋電王戦出場ソフト"ponanza"のオンライン対局観戦ページ公開


電王戦によって将棋界にコンピューター将棋の存在が浸透してきました。
2013年はプロ棋士全体にもコンピューター将棋が強く認識される年になると予想しています。


それではまた
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2013年03月16日

第2回電王戦1 〜全対局と観戦方法について〜

いよいよ来週末、23日(土)から電王戦が始まります。
毎週土曜日5週連続で行われ、4/20(土)が最終戦です。

それに合わせ、5日間にわたって電王戦の見所やコンピュータ将棋について書いていきます。
電王戦の参考にしていただければ幸いです。


まずは対戦カードと解説&聞き手を

■第1局(3/23):阿部光瑠四段 vs 習甦(しゅうそ)
解説者:阿久津主税七段/聞き手:矢内理絵子女流四段

■第2局(3/30):佐藤慎一四段 vs ponanza
解説者:野月浩貴七段/聞き手:山口恵梨子女流初段

■第3局(4/6):船江恒平五段 vs ツツカナ
解説者:鈴木大介八段/聞き手:藤田綾女流初段

■第4局(4/13):塚田泰明九段 vs Puella α
解説者:木村一基八段/聞き手:安食総子女流初段

■第5局(4/20):三浦弘行八段 vs GPS将棋
解説者:屋敷伸之九段/聞き手:矢内理絵子女流四段


リンクはこちらから
電王戦公式ページ
直前記者会見の模様
第2回電王戦PV
第1戦阿部光四段―習甦戦PV
大盤解説会(ニコファーレで公開収録)


中継はニコニコ生放送モバイル中継で行われます。
ぜひこの機会にプレミアム会員&モバイル会員にご登録ください。


私は全局対局場である将棋会館に詰める予定です。
モバイル編集長として、この電王戦の盛り上げに尽力します。
特に決められた仕事があるわけではないので、関係各位皆様はお気軽にお声掛けください。
時間があれば大盤解説場(場所が離れている)にも行ってみようと思います。

なおモバイル事業としては新しい試みも行いますが、公表することではないので省略。
私にとっては大きなことですが。


どういう戦いになるのか、人間同士ではないので全く予想がつきません。
皆さまもどうぞお楽しみに。

次回からはコンピューター将棋について書いていきます。


それではまた
posted by 遠山雄亮 at 20:26| Comment(0) | TrackBack(0) | 電王戦 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする