早速YSSはログを開示しており、大変興味深く、昨日の夜から夢中で見てしまいました。
以下に気がついたことを箇条書きで。
・1手につき、序盤は357秒、中盤戦以降は511秒で指すというのが基本だった。ただし途中でそれが493秒になったり揺れていて、なぜかは開発者の方に聞かないと分からない。
・序盤、△8六歩のところでは△2三歩や△4二玉や△4一玉も候補だった。
これは豊島七段に聞いた話とも一致。△2三歩には対策があったが、△4二玉や△4一玉は手強いと思っていたらしい。
・話題の△6二玉は、ほぼその一択とみていた。△2三銀や△3四飛も練習では指された、とは豊島七段談。
・それなりに時間を使っても△6二玉しか考えていないので、時間を使えばこの手を回避できるのかどうか、YSSに限っては疑問とみる。
・△6二玉では△5二玉が定跡でプロで大流行しているが、コンピュータ将棋のお気には召さない。電王戦第2局の時に色々なソフトに定跡を外させて聞くと△5二玉を示すソフトは見当たらず。△5二玉以外の場所へは行こうとするので、もしや△5二玉は疑問手なのか?!
・△3三同桂の辺りでは▲2一角には△4四角と読んでいたのに、直前に△3一銀に変更。この変更が運命の分かれ道だったかは不明。
・記者会見でも話していたように、練習では△4四角ばかりで△3一銀は1局だけだったとのこと。研究も薄いところだったようで、豊島七段にとってYSSの選択が吉だったかは微妙。
・△4四角以下の変化で、豊島七段が警戒し控室でも深く研究されていた手はログには表示されていない。
・△4四角で△2五歩も大変と思われるが、その手も表示されていない。
・▲4八銀はYSSにとって意外だった。対して△2一歩が有力と控室ではみていたが、YSSは△4四角一択。ちなみに控室で調べていた感じでは△4五桂が最有力だった様子。
・△9九角成と△2四飛でYSSが一気に形勢を損ねたというのが控室の見解なのだが、YSSはどちらもほぼその一手とみていた。
・▲3九金〜▲2九金打は人間からすると怖い竜を取って▲4二飛が残るので好手順にみえるが、いまいち評価していない様子。金香と飛の二枚換えだからか?
・▲2九金打と指されたところでYSSは不利を自覚したようだ。
・例の△1四金のところでは、少し前に△7九とに▲6五桂という手に気が付き、一生懸命に手を探して、ゆえに打った様子。代わる手は△1四歩だった。人間なら負けても△7九と、とやるところ。
・この△7九とに▲6五桂というのは人間にはひと目で、以下△7八とが詰めろにならないので▲5三桂成から詰めろが続けば勝ち、というのはアマ高段者なら分かること。
・しかし手数が長いのでコンピュータには読みにくい順。ログを見ると、▲6五桂以外では先手が大変なので、ゆえに途中までYSSは有利と読んでいる。しかし▲6五桂に気が付き、そこで長手数を読むことで段々と評価値が落ちている。
・なお我がPCのコンピュータ(スペックまずまず、ソフト性能良)に△1四金と打つ局面を511秒考えさせたが、▲6五桂には思い至らず。ただ▲6五桂の局面までいくとその手の良さが分かるので、読みでフォロー出来るかギリギリの手なのかも。
・これは昔から知られているコンピュータ将棋の弱点。一本道の長手数に弱い。意図的にこういう局面に持ち込むと人間がかなり有利だが、当然簡単なことではない。
・意図的に持ち込むのは現実的ではないが、そういう局面が現れやすい展開はある。その展開に持ち込む可能性をいかに高めるかが大切かも。
・このあとマイナスが4桁になり、終局に向かった。
・全体的に読みが噛み合っていない。
・読みに不可解な手が結構見受けられ、YSSにとって苦手な展開だったのかもしれない。
・コンピュータ将棋全般がこういう展開を苦手としている可能性もある。
・△6二玉が大悪手で将棋は終わり、というのはいくらなんでも短絡的というか、将棋はそんなに簡単ではないはず。初見では悪い手だと思ったが、そういう手が革命的な手になる可能性もある。結果だけで判断してはいけない。△6二玉〜△2三銀が成立すると、横歩取りに新たな風が吹くかも。
・ただし△6二玉と指したことでコンピュータ将棋が苦手とする展開に陥ったとはいえる。勝負という意味ではYSSの敗着は△6二玉だったかも。
豊島七段とも終局後に話をして興味深いことも多くありましたが、その辺りのことは観戦記担当の船江五段が書かれるでしょうからここでは記しません。
こうして両者の話(片方はログ)を聞けたことで一局の理解がより深まりました。
この一局は今後の対コンピュータ戦に於いて、エポックメイキングとなる可能性があります。
第1・2局のような揉み合いより、一気に勝負がつくスプリント勝負に持ち込んだ方がいいのかもしれません。
今までの電王戦で棋士が勝った将棋(第2回第1局阿部光四段、第2回リベンジマッチ船江五段、第3回第3局豊島七段)は全てそうでした。
コンピュータ将棋が苦手ということと同時に、人間側が集中を持続する時間が短くていいという理由もありそうです。
ソフトが踏み込んでくると「読み切られたか」と弱気になりやすいですが、そこで踏み込む勇気が対コンピュータには必要のようです。
第4局は森下九段とツツカナの対戦。
森下九段もツツカナの中盤力をかなり警戒しているので、この将棋のように一気に激しくなる戦いに持ち込む可能性はありそうです。
次局もご注目ください。
それではまた
▲7七桂で後手良しと読んでいたところ
▲8六香と読んで急に評価が先手に傾いたために△3一銀に変更していますね。個人的にこの香打ちは悪手にしか見えないのですが、何を評価したのか気になるところです。
本対局の示唆するものは、人間側にとってもコンピュータ側にとっても非常に大きな意味を持っているように感じられます。
勝敗云々は別として、長い持ち時間でプロ棋士と将棋ソフトが真剣対局をするという機会が極めて希少である分、この電王戦の対局は話題性以上の貢献を双方の進歩にもたらすのではないでしょうか。
その辺りに、将棋というコンテンツにおけるプロ棋士とコンピュータの共存、というテーマに対する光明が見え隠れしているように思います。
YSSのログ、豊島七段の談話、そして遠山先生のわかりやすい分析と解説で、電王戦第三局の真実が鮮明に浮かび上がっているような気がします。
自分のような棋力の低い「見る将」「読む将」にとっては、YSSログのような一次資料は理解できないので、このような記事は大変面白く、かつありがたいです。
対局終了後、データや資料が公開共有され、それに専門家が的確な分析を加えるところは、自然科学の世界を思わせます。しかもそれが非常なスピード感で行われ、インターネットを通じて広く、誰でも楽しめるということは凄いことだと思います。将棋というコンテンツの素晴らしいところですね。
関係諸氏に敬意を表したいと思います。
4五桂、1一龍、2四飛、1三龍、2九飛成、1四龍、3八角
もしくは、2九飛成に対して
3九金打、2五龍、2八香、3四龍
どちらも優劣不明な感じがします。
もしこれで互角になるとしたら、何とも奥深いものですね。
inntel製CPUのスマートフォンへはソフトのインストールが簡単らしいです。
女流棋士も人気があるので興行として成功すると思います。
自分でも寄付解析をBonanzaV6 GPSFish を使って行いましたが、独力ではどこがキーなのか、よくわかりませんでした。
25手目付近では、やや先手有利程度で点差は大きくないようですが、それは、現在のソフトが先を見通せないためで、人間的には、先手優勢な分かれの様に思えます。
このような局面を避けるために、定石を採用するのだと思うのですが、対人間の場合、定石を何手目まで採用するかは悩ましいと感じました。長すぎても、短か過ぎても問題がでそうです。
62玉と上がるのは、飛車から遠ざかるメリットを大きく見ている様に思えます。(駒の位置関係が重要評価項目なので。)
左辺に隙ができるデメリットは、現段階では GPSFishには見えていないようです。(BonanzaV6では、どちらの場合も62王でした。)
これらに対応するためには、序盤は、戦形別に(または、王の安定度別に)評価関数を用意する必要があるように思います。ただ現実には定跡で不利になる手を回避する方が簡単なので、そちらが選ばれるとは思います。