後手玉が詰んでおり、一手差のきれいな投了図です。
しかし対コンピュータ戦ではこういう投了図は珍しく、大体差のついた図になりがちです。
有名なところでは第2回電王戦阿部光四段―習甦戦がまさにそうでした。
これはツツカナのことを知り尽くした船江五段が、ツツカナにソフトが絶対にしないはずの形作りをさせたからです。
直前に無駄手を指してきて勝利が決定的な中で指された▲8二飛。
控室では詰めろだと分かると同時に、ツツカナに形作りをさせようという狙いが見えました。船江五段の真意がつかめた時、控室で歓声があがったのは言うまでもありません。これは2年間にわたってソフトと対峙し、ツツカナを知り尽くした船江五段だからこそ指せた手なのです。
さてもう少し具体的に説明すると、▲8二飛は▲4一金からの詰めろなのですが、ほぼ追い詰みながら手数がかかります。無駄合含めれば30手近い詰みで、基本的に20手+αがソフトの読みの限界なので、読み切れない可能性が高い詰みです。
詰みに絶対的な強さを誇るソフトですが、一直線の詰みじゃない(この場合後手が1手王手に絡まない手を指す)と読めない場合があり、トン死を食らうことがたまにあります。
詰みの部分はソフトによって違うので一概には言えず、詰みがあるかどうかだけ深く読むソフトもあります。ツツカナがどういうタイプかは分かりませんが、詰みを読めなければ、飛を取るという詰みを防ぐ以外で明らかに一番価値が高い手を指すはずです。
結果的に▲8二飛に対してツツカナが受けずに飛を取ったため、船江五段が望んだとおり綺麗な形で将棋が終わりました。
この▲8二飛は人間がコンピュータに形作りをさせる、そんな一手でした。
互いの呼吸が合わなければ綺麗な投了図は生まれません。船江五段とツツカナが互いを敬い合う関係だからできたことなのでしょう。
蛇足ながら詰み手順は、▲4一金△同金▲同と△同玉▲5二角△同銀▲5一金△3一玉(実戦は△同玉▲6二金から追い詰みに)▲4一金打△同銀▲同金△同玉▲5二銀△4二玉▲3一角△同金▲6三銀成△5一玉▲5二飛成。▲3一角というタダ捨てが入った綺麗な19手詰みです。▲6三銀成に無駄合をするともう少し手数が伸びます。
それではまた
それにしても船江さんは、この勝負をよく受けた!
そしてよく勝った!
しびれました(^O^)