2013年05月03日

諸々

電王戦総括の記事にはたくさんのコメントをいただきました。
私自身もハッキリとした正解が見えているわけではありません。
多くの方に喜んでもらえたのが良かった、ということが前回書いたことです。

来週発売の週刊将棋5月7日号でも電王戦に関するインタビューに答えていますので、そちらもぜひご覧ください。

時代というものは流れているもので、それに逆らうのか乗るのか、判断をしないといけません。
コンピュータの進化やネット配信という現代の潮流に将棋界は乗ったわけです。
私は流れに乗るべきだと考えていますが、正しいかは分かりません。
色々な意見があって当然だと思います。


さてそのコンピュータ将棋同士が戦うコンピュータ選手権が3日〜5日で開催されます。
第23回コンピュータ将棋選手権 ご案内
電王戦の流れから昨年より注目を集めているでしょう。
私は開催2日目に伺う予定でいます。
電王戦に出場したソフトが活躍するか、楽しみです。


さて女流棋界では里見女流がマイナビ女子オープンで上田女王をくだし、史上初の五冠となりました。
里見香奈、史上初の女流五冠に!(将棋連盟のお知らせ)

全四冠時代に清水女流が四冠となりましたが、現在は六冠あり、そのうちの5つを制したことになります。
里見女流の向上心は私も見聞きしています。
また難しい環境でも心を乱さないということも素晴らしいと思います。
今後も頑張ってほしいです。


それではまた
posted by 遠山雄亮 at 22:24| Comment(3) | TrackBack(0) | 将棋 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
里見香奈さんまだ若いですし、これから楽しみですね!。
このままの勢いで六冠王いくと盛り上がりますね。
Posted by ハヤトバンク at 2013年05月04日 07:02
 はじめまして。第2回電王戦の終了後、それぞれの立場の方々の感想を探し歩いていて、初めてここに来ました。
 コンピュータの3勝1敗1分という結果は、もしかしたら逆になっていた可能性もありますが、コンピュータ将棋の強さは十分に分かりました。今回の結果をどう受け止めたらいいのか、マスコミ界も戸惑っているように見えますが、私も一将棋ファンとしていろいろ考えました。どこに書くのがいいか迷いましたが、こちらが一番いいと思いましたので、やや長くなりますが失礼します。内容は3点です。

@今後も電王戦を行うとしたら
 名人・竜王・三冠クラスのトッププロとGPS将棋の七番勝負を早めにやるべき、というか私は見たいです。コンピュータは今後もハードの進歩だけでも強くなるでしょうから、早くやったほうがいいです。つい先日の第23回世界コンピュータ将棋選手権の結果を踏まえて、プロA―Bonanza、プロB―ponanza、プロC―GPS将棋でそれぞれ番勝負を行うのもいいと思います。
 ただし、その前にもうワンクッションおいて、メンバーや対局ルールをよく検討した上でもう一度、5対5の団体戦をやってみるのはありかなと思います。その場合、今回の結果が結果なので、文化的評価は別として少なくとも興業的には「プロがコンピュータにリベンジを挑む」という扱いを受けることは我慢しなければなりませんが。

Aコンピュータ将棋の実力
 今回の結果と内容(特に第2局、第3局の逆転勝ち)から考えると、一つの仮説として、現在のコンピュータのトップレベルはプロの平均レベルに対し、角落ちでもそこそこ勝つのではないかという見方も成り立ちうるのではないでしょうか。
 最新の定跡研究手順ならプロに分があるという見方がありますが、それであっさり勝てるほど形勢に差がつくケースは実際は少ないでしょう。今回の結果やコンピュータの終盤の強さ(疲れないことや感情がないことも合わせて)から考えると、コンピュータは人間と戦う場合には、多少不利になるとしても定跡を外して切り合いに持ち込めばいいという戦い方ができます。「そんなことは許さない」と言えるほど深い研究の裏打ちと中終盤力のあるプロでなければ、勝ち切ることは大変だと思います。
 第4局の後で塚田九段が「昔の谷川九段と指しているような気がした」と言ったのが印象的でした。また第3局のツツカナの5五香について大崎善生さんが「若き日の羽生善冶を髣髴とさせる」と書いていました。「あの序盤で名人を超えたと言うのはちょっとどうか」とは私も思いますが、中終盤の力でそれを補って余りあるのが現在のコンピュータ将棋の実力でしょう。

B将棋の面白さとコンピュータ将棋
 今回の電王戦を通じて興味深く感じたことの一つに、おもに序盤から中盤で、プロの形勢判断とコンピュータの評価関数の数値がまったく食い違う場面が多かったということがあります。どう考えてもコンピュータの評価のほうがおかしいだろうと思える場面もあり、逆にプロの感覚のほうが甘かったと思える場面もありました。この理由を解明することは一つの研究テーマとして価値があるし、またコンピュータ将棋との戦い方を考える上でも意味があると思います。
 プログラムの仕組みには詳しくないので的外れかもしれませんが、私が感じたのは、プロの形勢判断は駒得、手得、駒の働き、持ち駒などを基にして「詳しく調べればこちらが良くなる手順があるはずだ」と考える棋理であるのに対して、コンピュータの評価関数は守りの堅さや攻めの勢いを基にして「実戦的にはこちらが勝ちやすい」とみる一種の経験則なのではないかということです。違うかもしれません。ここは誰かに教えていただけるとありがたいです。
 少し話が変わりますが、近年のプロ界の「これで勝率○%」といった議論は、せせこまし過ぎて普通のアマチュアにはついていけないし面白くもありません。それに比べて今回の電王戦の何と面白かったことか。プロの技と頑張りもコンピュータの指し回し(好手も悪手も含めて)も。行き詰まり感のあったプロ界に対し、「将棋はそんなものではない」と、コンピュータが改めて将棋の面白さを取り戻してくれたように思います。

 今後目指すべきコンピュータ将棋との共存共栄が具体的にどのような形のものなのか分かりませんが、十分に光明はあるのではないでしょうか。
Posted by 矢澤民樹 at 2013年05月07日 16:05
 前回のコメントの後、また考えたことがあるので、書いてみたいと思います。
 前回あまり深く考えずに「角落ち」という言葉を出しましたが、現在のコンピュータ将棋は一般に駒落ちが苦手と言われています。そうだとすると、現在のコンピュータ将棋の強さは本当の将棋の強さではないのではないかという気がしてきました。

@コンピュータ将棋と駒落ち
 コンピュータ将棋が駒落ちをマスターするためには、きっと駒落ちの棋譜を何万局も集めてデータベースと評価関数を作ればいいのでしょう。それとも評価関数の方は、平手の評価関数に定数を加減するような簡単な調整で済むのでしょうか。その辺は私にはよく分かりません。いずれにしても、やってみないと実証できないことですが。
 改めて第1回電王戦を思い出すのですが、米長永世棋聖が用意した作戦は後手番初手6二玉とともに角道をあけないことで、序盤は角落ちの上手のような指し方で成功していました。しかし途中で角道をあけたために、角同士がぶつかる形が生じてボンクラーズに戦機をつかまれ、そもそもの敗因になったように思います。
 ここから考えられることは、コンピュータ将棋が駒落ちを苦手としている理由は、物理的に角などが盤上にあるかないかが影響するのではなく、実戦例が少ないことが決定的なのではないかということです。
 それはやはり本当の将棋の強さとは違うのではないでしょうか(それでも切り合いになってしまえば本当に強いだろうと思いますが)

A将棋の結論解明とコンピュータ将棋
 「将棋には結論がある(先手必勝か後手必勝か引き分け)」ということはしばしば語られます。私は、コンピュータ将棋が進歩すればその結論を解明する方向に近づくのかと思っていました。しかしそれは早計だったようです。
 将棋のすべての手の数は「10の220乗」と言われています。GPS将棋が昨年の第22回世界コンピュータ将棋選手権で優勝した時の能力は、約800台で1秒間に約2億8000万手読むくらいでしたか。これだと1年かけて読める手の数は「10の16乗」(あ、1京ですね)くらいなので、「10の220乗」を読みつくすには「10の204乗」年かかることになります。つまり不可能ということです。0が220個並ぶというのは、天文学的数字と表現されるレベルをもはるかに遠く超えた世界なんですね。仮にGPS将棋の1億倍の能力があるコンピュータを用意したとしても、0が8個減って「10の196乗」年になるだけですから、ほとんど関係ありません。
 コンピュータを使って将棋の結論を解明しようとしても、力づくでは不可能で、読まなくてもいい変化を切り捨てるなど整理するための理論が必要だということになります。それは簡単ではないでしょう。

 実際、今のところ想像とは逆に、プロのほうが理論的な(と見える)考え方をしていて、コンピュータ将棋のほうが実戦的に勝つ方向に進んでいるというのが興味深いところです。
 将棋の結論として、実感に近いのはやはり「双方が最善を尽くせば引き分けになるが、最後に悪手を指したほうが負ける」というものではないでしょうか。仮にこれが真理だとすると、コンピュータ将棋の指す手も常に絶対に正しいのではなく、「最後に悪手を指したほうが負ける」という宿命からは抜けられないということになります。人間と同じ土俵です。ソフト同士の対戦でも必ずそうなるはずで、引き分けでなければ、どちらかが最後に悪手を指して勝負がつくはずです。それは「時間切れ」などという形とは違う、もっと面白い世界になるのではないかと思うのですが…
 ついでにおまけですが、将棋の引き分けには千日手と持将棋がありますから、コンピュータ将棋が今より上のレベルを目指すなら、入玉は避けては通れないテーマになるはずです。

 …こんなことを考えていると、ボナンザ系の機械学習は確かに有効な手法ですが、強い将棋ソフトをつくるための唯一絶対の手法というわけではないのではないかと…。平手も駒落ちも、あるいは入玉・持将棋も、統合的に処理できるプログラムの手法が誰かに編み出されて、将棋ソフトに次の革命をもたらす日が来ないか…などという夢を見ている今日この頃です。

Bおわりに
 今回はほとんどコンピュータ将棋の話ばかりになりました。
 コンピュータ将棋がプロのトップを超える日がいつか実際に来るとしても、プロの将棋の価値が下がることはありません。「将棋世界6月号」の「プレイバック2012トップ10」の棋譜などをみると、将棋は本当に面白いと思います。連盟のプロのみなさんには、本当にコンピュータ将棋との良い関係を築いてほしいと願っています。
 将棋ソフトを使った不正行為の可能性も指摘されていますが、そういった問題はきちんと解決する必要があるでしょう。まず発覚した場合はどうするという取り決めをしておくだけでも違うと思います。
 日常の研究に将棋ソフトを活用することは、プロが勝つために行う研究に有効なら当たり前で、止めようがないでしょう。それによって将棋がつまらなくなるかどうかは、今後を見ないと分かりません。繰り返しになりますが、私は将棋の持つ「10の220乗」の可能性はそんなものではないと思っています。
 今後望まれる将棋界とコンピュータ将棋との関係というのは、これらの問題とは質的に違う世界の話だと思っています。その具体的な形を見出していくことが、プロとコンピュータ将棋の双方の関係者、あるいはファンも交えた議論と実践の中に求められてくるのではないでしょうか。悲観も楽観もせず、未来に向かって進んでいく以外にはないのだと思います。何だか一つの将棋の局面みたいですね。だからこそプロのみなさんに期待を持つのです。

 長々と読んでいただいたみなさん、ありがとうございました。書きたいことを書いて、ひとまずまとめられたので、私の書き込みは多分これで終了です。
Posted by 矢澤民樹 at 2013年05月27日 06:10

この記事へのトラックバック