2013年04月24日

電王戦第5局のGPS将棋の読み筋を精査してみました

GPS将棋は自分の読み筋の一部をHPで公開しています。
GPS将棋の電王戦のページ

今回の電王戦ではコンピューターの指す将棋を間近で見て検討したことにより、勉強になることが多くありました。
局面を広く読み、その読みの量から繰り出される手は、将棋の深淵を見せられることもあります。
私自身もコンピューター将棋にはかなり影響を受けていますが、一層その色が濃くなったように思います。

そこでせっかく読み筋が公開されているので、勉強も兼ねて精査してみました。
プロなんだから盤面を〜という片上六段の言葉(電王戦第3局コメント欄参照)がありましたが、この試みは
「プロなんだから読み筋を精査して判断してみよう」
というものです。

読み筋といっても一部(じゃないと数億になる)ですが、それでも多くのことが見えてきました。
今回はその一端を紹介します。

図は53手目に▲7六銀打としたところ


2013.4.24精査図1.gif


▲7六銀打は昼食休憩明けすぐの手。
事前にGPS将棋の読み筋が伝えられていて、▲7六銀打には△5二飛の予定と聞いていました。
この△5二飛は感触の良い手で、控室の棋士は感心していました。
しかし実戦は△7二飛。GPSは手を変えてきたのです。
それが何故なのかハッキリしなかったのですが、△5二飛には嫌な手があったのだろうと言われていました。

その△5二飛に嫌な手というのが今回の精査で見えてきました。
それが驚きの順なのです。


2013.4.24精査図2.gif


この△5二飛に▲1五歩△同歩▲1三歩△同香を嫌がっていました。


2013.4.24精査図3.gif


この順以外なら△5二飛で自分が僅かに良しと読んでいます。
これだけでは真意がはかりづらいので、自分のPC(中くらいのスペック)のGPSFishに後を託しました。
すると以下
▲同角成!△同玉▲6五香△4二角▲6三香成



2013.4.24精査図4.gif
杏=成香


これで互角という検討でした。1台でこのスペックでもかなり時間をかけたので、そう結論に差はないでしょう。
さすがにこの図は後手優勢だと思うのですが、どうなんでしょうか。プロの意見も聞いてみたいところ。

もしこの図が後手優勢なら、翻って第2図の△5二飛に▲1五歩は疑問です(この攻め以外は突き捨ての意味が薄い)。
△5二飛に先手の有力手は見えてきません。△7二飛は感触の悪い手という評判でした。
つまりGPS将棋は△5二飛という好手が見えていながら、変な手を気にして△7二飛という疑問手を指した、ということです。


こういったことは他にもあり、精査すると読み筋が完璧とは思えませんでした。
ただ考えづらい手順が入っていて、なるほどと思わされることも多くあります。
今回のことも、実は▲6三香成の局面が互角で、私の判断が間違えているということも考えられます。
それはそれで新しい発見です。


精査した結果を一部発表したのは、イメージだけで判断されている風潮に一石を投じたかったから。
1秒間に約2.7億手読むGPS将棋でも、将棋は奥深く難しいのです。
それを理解していただきたくて書きました。


読み筋を精査していくことは、第3回電王戦が開催されるなら盛んになるでしょう。
これまでは現役棋士とコンピューター将棋の真剣勝負の場がなく、研究が出来ませんでした。
この作業を真剣に取り組むと、コンピューター将棋の力というものが正確に見えてくるのではないでしょうか。


個人的な総括や、全体の総括も近日中に書こうと思います。


それではまた
posted by 遠山雄亮 at 13:37| Comment(9) | TrackBack(0) | 電王戦 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
この記事、面白いです。
複数の棋士や開発者も交えて「公開感想戦」をやって Youtube にでもUPしてほしいなぁ・・・とか思ったりします。本気でやり始めたら凄い時間がかかりそうなので、何回かに分けてUPして頂くのもアリだと思いますが。

そんな「感想戦」をきちんとやる。棋士にとっても開発者にとっても有意義で、ファンも楽しめる・・・地味だけどいいイベントになりそうな気がします。

Posted by たるく at 2013年04月24日 15:01
百万円チャレンジの時もそうでしたが、GPSは端攻めを妙に高く評価する傾向がありましたね、角を切っても端を突破できたからそれでよし!みたいな。ソフトというよりGPSfish独特の癖なんでしょうか
Posted by 安達 at 2013年04月24日 18:24
クラスタ化されたGPSに5二飛から進めてずっと先を読んでもらったら面白い結果になりそう。1台のGPSとでは読み数が全然違うしすごい気になる。
Posted by やきそば at 2013年04月24日 23:22
すごく興味深い研究ですね。さすがプロ棋士。
今回の電王戦は残念でしたが、研究が仕事、対局は回収のプロ棋士だからこそ、
次回はコンピュータの理解をこえて勝利を期待しています。
Posted by たま at 2013年04月25日 03:47
なるほど、GPS将棋の読み筋は奥が深いですね。
その読み筋を応用すると、△5二飛に一度▲6五歩と突いてから△8二角に▲1五歩△同歩▲1三歩△同香▲同角成〜▲8三香もありそうです。

コンピュータの読みがプロ棋士よりも深く、素早く的確に対応するようになってきているのでしょうかね。
Posted by infosensor at 2013年04月25日 09:16
大変興味深く面白く読みました。これからはソフトの読み筋、解析も将棋研究に大いに活用する時代ですね。課題局面の指定局面戦など個人で研究するには最適かもしれませんね。または互角分かれからのねじり合いなどトレーニングにもなりますか。

なるほど端から
角を切って香ですか。
いかにもなソフトらしい攻めですね。
まず人間はというかプロ的にはやらないような手ですね。
しかし6三成香の図では、盤に並べてみましたが、アマの目ですとひょっとすると互角かもしれませんね。後手難局かもしれません。
とりあえず飛車を逃げなくてはいけませんが、5一でも9二でも、じっと7三歩成が手厚いのでは?
2六銀から攻める筋もあり8五銀から上部開拓もあります。後手は2二玉の一手が必要ですし、すぐに早い手もなさそうです。案外互角かもしれませんね。
どちらにせよソフトの読み筋を精査することであらたな将棋の大局観が生まれてきそうですね。
Posted by 駒落ち好き at 2013年04月25日 13:02
香車をとって、▲6五香で先手よしの読みとは驚きです!
将棋ソフトならではの感覚なのでしょうか?
Posted by ハヤトバンク at 2013年04月25日 20:34
GPSfish の情報有難うございます。さっそく落としてきました。
BonanzaV6 と連続対戦させたところ、1手15秒と30秒で、どちらも GPSfish の 8勝1敗でした。GPSの方が、nps の値は、1/3 程度ですが、すこし深く読んでいるようです。
では、では。
Posted by masatsune at 2013年04月28日 23:37
GPSは度々人間が攻める手を読んでいました
三浦棋士は対局後どこかで攻めるタイミングが、、、とおっしゃられてました
作戦を決めてからの敗因は、やはり攻めなかったからだと思います
その意味では、GPSの王に近い側で戦いを起こさせず左辺に集中させた手はいいと思います
Posted by ぺけ at 2014年02月16日 07:43

この記事へのトラックバック