2013年03月18日

第2回電王戦3 〜コンピューター将棋が私より優れる点、劣る点〜

以前の記事
第2回電王戦1 〜全対局と観戦方法について〜
第2回電王戦2 〜プロ棋士とコンピューター将棋の接点〜

今月号の将棋世界、今週号の週刊将棋にも電王戦の特集が組まれています。
そちらもぜひご参考ください。


さてコンピューター将棋は人間の指す将棋とは随分違います。
最近は棋譜を多く学習させ、そこから評価関数・指し手を導き出すソフトが多いのですが、それでも違うと思わされます。

実力はどうなのか、尺度が難しい問題ですが、自分を基準として大きく上や下に振れてはいないでしょう。
自分より優れていると思う部分もあれば、ここは自分のほうが強いなと思う部分もあります。
今回はプロからみた、自分より優れている所と劣っている所を書いていきます。
あくまで私見で、他のプロが見るとまた違う部分があるかもしれません。


☆優れている点
・常に100%の力が出せること
これは本当に羨ましい。
人間は体調や精神状態で大きくパフォーマンスを下げることがあります。
またPC画面に向かうのと盤に向かうのではパフォーマンスが随分と違います。

・終盤の見切り
人間と違って震えることや先入観が一切ありません。
例えば下の図。ボンクラーズ特集で取り上げた図です。

2013.3.18電王戦1.gif

ここから△4四角▲同馬△5八と!と進みました。
△4四角は▲2二金からの詰めろを消した手。
▲4四同馬も普通ですが、そこで馬を取り返さないのは驚きです。角を合わせて取られたら取り返す、というのはセットになっていますから。
とはいえ▲4四同馬の局面は冷静にみれば詰めろではないので、△5八とは確かに好手です。
先入観もなく、震えも一切ないこの手順。人間にはなかなか出来ません。

・ゴチャゴチャした中盤戦
プロは基本的に定跡をベースにして土台があり、それに沿って指し手を決めています。コンピューター将棋はそれが出来ない分、全て読みでカバーしてきます。
コンピューター将棋は相当の手を読むことが出来るので、読みの量では人間が勝てる見込みが薄いです。特にハードの性能によっては桁外れの手を読むことが可能です。
そうなると定跡から大きく外れて、多くの読みが求められる中盤戦になると人間より強いでしょう。
ただし直観で正解を探り当てることが容易な局面ではミスを犯す可能性は人間のほうが低いです。


☆劣っている点
・序盤戦
序盤戦は間違いなくプロが勝る部分です。
定跡形で結論が出ている形にコンピューター将棋が飛び込む、というのは人間vsコンピューター将棋でよくあること。

例えば図。将棋倶楽部24でボンクラーズが指していた時に話題になった局面。

2013.3.18電王戦2.gif

角換わりで詰みまで研究されている形で、これでボンクラーズが何度も負けました。
後手の手番で自玉は必至なので詰ますよりないですが、先手玉は詰まないと結論が出ています。

私もコンピューター将棋と指していると、定跡通りで勝ったり不利な定跡に飛び込んでくることは多くあります。
ただし人間は忘れるので、多くの定跡・棋譜を事前に入力してあるコンピューター将棋の方が有利に働くケースもあります。

また序盤で構想を立てるのもコンピューター将棋が苦手とするところ。
私見では飛先交換に無頓着だと思います。他にも色々あるでしょう。
とはいえこの点は徐々に解決されることでもあると思います。

・勝負手がはなてない
点数で局面を管理して指し手を決める以上、相手が間違いやすい手を選んで勝負手をはなつということは出来ません。
もし相手が間違わないと差が開いてしまうからです。
必然的にじり貧の手を選んでただの延命を行い、勝機の全くない展開になることが多くあります。
ただし差が大きくない時は、自爆をしないので人間側がじれて逆転を許すケースもあります。

・終盤は決して完璧ではない
コンピューター将棋が終盤で強いのは間違いがないのですが、勿論悪手も指します。
これも以前の放送で使った図

2013.3.18電王戦3.gif

後手の手番。形勢は後手優勢ですが、▲1三銀からの詰めろがかかっています。実戦は△2四歩と受けましたが、▲1三銀からトン死しました。
最初の詰めろは15手詰み、実戦は25手詰み。長い手数の詰みに弱いところがあるようです。
人間からすれば読まなくても詰む形ですが、コンピューター将棋は律義に様々な手を読み、長い手数の詰みを見落とすのです。
ただし短い手数(9手くらい)の詰みを見落とすことはほぼ無いです。
人間のほうが先入観や筋に無い手でウッカリする、ということがあります。

他にもゼットの感覚が無いので、絶対詰まない穴熊に距離感を間違えてコンピューター将棋が逆転負け、というケースも見たり指したりしています。
一見穴熊に強そうですが、手が読みやすいので人間のほうに分があるのかもしれません。
渡辺竜王―ボナンザ戦も、穴熊の距離感を間違えてコンピューター将棋が負けた一局でした。


人間がこの弱点を意識的につくことが出来れば、相当負けないでしょう。
ただしその「弱点を意識的につく」というのを一局通じて実行するのは大変なことで、私には出来ません。電王戦は長時間の持ち時間ですし準備も相当でしょうから、もしかしたら出来るかもしれません。やってみないと分からないところです。

長くなりましたが、コンピューター将棋には人間とは全然違う特徴があります。
少しでもコンピューター将棋への理解が深まるお手伝いになれば嬉しいです。
次回は電王戦本番の対局について。


それではまた


posted by 遠山雄亮 at 17:35| Comment(3) | TrackBack(0) | 電王戦 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
おつかれさまです。分かりやすく要点に触れられていて非常に面白く拝読しました。
今回の対局にはとても注目しています。コンピューター将棋の新たな門出になると思います。
プロ2敗はあると予想してます。
Posted by 駒落ち好き at 2013年03月18日 18:35
弱点が出る戦型・局面というのは確かにあっても
先後が決まってるとはいえ一発勝負でその局面に持ちこめるかというと
確率は相当小さくなるのではないかと思っています
とはいえ、序盤で多少の有利になることは多いのでしょうし
電王戦ではプロ棋士の勝利を見たいと思っています
Posted by r at 2013年03月18日 19:59
今のコンピュータ将棋は、1分間で局面にもよりますが、18手(個人の高速PC)から22手(クラスタマシン)程度先を読んでいます。したがって、その先にある好手や詰みは見えません。また、水平線効果は依然として残っており、例えば、18手目に不利な順があると、不要な手をはさんで、その局面を20手目以降に押しやってしまう事もあるようです。
 ボナンザV6で、渡辺竜王や羽生3冠は、ボナンザの持つ定石を外れた局面での評価値が、ほとんどの場合、自分が(−)でない(正確には、-100以下ではない)局面になっています。他のプロと明らかに差がある部分です。お二人の大局観&研究の深さを示していると思います。逆に言えば、コンピュータ将棋は、このあたり無頓着で、自分が歩1〜2枚程度不利な局面(-200点)でも、平気で採用します。過去に指された棋譜を元に定石を作成しているためかと思います。この点を嫌って、定石を早目に打ち切るプログラムもあります。
 個人的には、プロの平均点を1500点として、今回のコンピュータは、1600点くらいかと思っています。(渡辺竜王・羽生3冠は、1930点程度、3位と120点くらい差があります。)
いずれにしても、面白い勝負を期待しております。
Posted by masa at 2013年03月19日 02:06

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