序盤色々駆け引きがあったものの戦型は相矢倉。お互い全力を出しきりたい最終局。やはり矢倉がお互い一番力の出るところでしょう。
将棋に関して触れていきますが、棋譜・図面は竜王戦中継サイトをご参照ください。
先手の渡辺竜王としては、なんとか主導権を握る戦いにしたかったでしょう。そういう意味で57手目に▲45歩と開戦し、主導権を握る展開になって、形勢はともかく竜王のペースだと感じました。
途中千日手模様になったのですが、この千日手「模様」というのは曲者。「絶対」千日手なら迷いが無いのですが、「模様」だと、打開するとどうなるか、持ち時間差をどう考えるか(指し直しは持ち時間が引き継がれる)、と余計な事を考える事になります。
実力差の近い、特にプロ同士では、こういった駆け引きで一気に差が開く時があります。ちなみに先日の私の対局でも千日手「模様」になり、この時は相手が打開したのですがそれが悪手。魔物が潜みやすいのです。
この将棋でも、この千日手「模様」で佐藤棋聖はだいぶ時間を使っていました。消耗度は似たようなものですから、これも大きかったのではないかと感じました。逆に言えば、そのあたりで渡辺竜王は戦上手ぶりを発揮したとも思います。
我々の研究会でも色々検討していましたが、その中の結論では、104手目△16馬(飛を取った)がまずかったというもの。それ以降は渡辺竜王の優位が揺らぐ事はありませんでした。特に▲24歩(123手目)〜▲57角(125手目)が素晴らしい決め方でした。
では△16馬の代わりにどうすれば、というと。
△23馬と逃げるしかなかったか。これに対しては▲41角が手筋。△45銀と桂を取ると▲24歩が激痛。以下△同馬なら▲45銀なので△33馬。これに対して▲45銀は△67歩成(王手)なのですが、▲32角成△同玉▲23金と王手馬取りといき、△同馬▲同歩成△同玉に▲45銀として先手大優勢。
そこで△23馬▲41角に△24歩(!)と守ります。これには当然▲52と。△31銀だと▲53と△同銀▲同桂成△同金▲34銀で先手優勢。
という事で▲52とに△33歩(!)と再び修正。▲42とで銀を取られますが、以下△同金引▲63角成に△45銀と桂を取り返す。
整理すると、▲35歩(103手目)に△23馬▲41角△24歩▲52と△33歩▲42と△同金引▲63角成△45銀。
これで後手が良いというわけではありませんが、本譜と比べてだいぶ良かったと思います。先手から見ると後手陣が異常に固く、勝つには大変な局面です。
とはいえこの手順は実戦で指せるとは思えないくらい指しづらい順。
本譜は先手の持駒が豊富なうえ2筋がスカスカなので、▲41角が激痛になってしまい、後手は挽回の余地が無くなってしまいました。
渡辺竜王は防衛おめでとうございます。本人のブログに本局の解説が出ているので是非ご覧になってください。
その中で
本当に苦しいシリーズだったので勝ちが決まった時は涙が出そうなくらい嬉しかったです
という部分は印象的。飄々としている竜王といえども、非常に苦しんでいたんだな、という感じがします。本当におめでとうございます。確かに第2局の時点では防衛はかなり困難に思えましたもんね。
私も個人的に、年齢も近く、同じブロガーでもあるので、やはり応援する気持ちがありました。ですから今回の防衛を嬉しく思います。そしてまた、自分も頑張らねば、という思いを強くしました。
竜王戦に関しては、来週発売の週刊将棋。そして将棋世界に詳細が掲載されます。そちらも是非ご覧下さい!
名局揃いの竜王戦も閉幕し、将棋界の一年も終わりに向かっている感じが色濃くなってきました。
それではまた
【関連する記事】
△2三馬に対してですが、屋敷九段が指摘されていたように、▲6四角で先手が指せるように思います。
△7三歩や△9二飛には▲5三桂成からばらして▲3四銀と2三の馬に当てる手が生じます。
やや先手がいいように思いますが。どうでしょう?
いまから読売新聞の棋譜連載が楽しみです。
余談ですが、先日会社の忘年会で竜王戦が行われた富山の宇奈月にあるホテル、延対寺荘に行ってきました。立派なホテルでしたよ〜。将棋はしないで麻雀をしたのですが(笑)
ただ▲53桂成からばらすのは、急所のと金を外すだけに実戦ではやりにくいと思います(▲34銀の局面も先手が良いですが)。そういう意味で実戦的には△23馬の方が良かったと思うのです。
忍者福島さん>非常に濃密なシリーズでしたね。是非観戦記もお楽しみください。
そうしてタイトル戦が行われたホテルに行くと面白いでしょうね。ホテルの方に聞けばきっと対局室だった部屋を見せていただけると思いますよ。