渡辺竜王が角交換から持久戦を目指したのに対し、佐藤棋聖は一部で(私が)遠山流と呼んでいる△72金から早めの仕掛け。
いったん局面は落ち着いたものの、佐藤棋聖が突然敵陣に角を打ち込み、そこで封じ手となりました。
詳しくは竜王戦中継サイトで
さてこの形。前にも要望があったので少し解説してみます。
まずゴキゲンの基本形まで▲76歩△34歩▲26歩△54歩▲25歩△52飛
そして、▲22角成△同銀とするのが居飛車の有力な手段。
この角交換型は最初に丸山九段が指して「丸山ワクチン」と言われました。そしてその後しばらくして▲22角成△同銀の後に▲78銀としたのが居飛車の工夫。
それまでは▲88銀が主流で、それだと矢倉になりやすかったのですが、▲78銀ならば、矢倉にも左美濃にもなり、柔軟性があります。
この形が優秀でゴキゲン側が対策に苦慮していたのですが、そこでスゴイ手が現れました。
それが、▲78銀に△62玉▲48銀△55歩!
これは▲46歩と突かれる前に5筋を交換してしまおう、という手。非常に突っ張った手で、▲65角と打たれると角成りが受かりません。
ところがそこから、△32金▲83角成△56歩▲同歩△88角とすれば(第3図の端が入っていない形)、何と香取りが受からず後手が良くなります。ちなみに△56歩は、△88角に▲61馬△同玉▲98金という手を消しています。
これで5筋を交換できる事になりました。それで良くなる訳ではないですが、主導権を握った戦いになりやすく後手もまずまず。そういった主導権を握った戦いはゴキゲン中飛車の長所であります。
この戦いに終止符を打ったのが佐藤流の▲96歩。これは▲78銀の前に突きます。これに△94歩と受け(これは受けた方が後々良い)、以下▲78銀△62玉▲48銀と進めます。
ここで△55歩といくと、▲65角〜先ほどの手順で△88角と打ったときに
▲97香と逃げられるわけです。そうなれば馬の作りあいになり、先手は二歩得しているので有利になります。
これでゴキゲン側は5筋が交換できなくなり、先手は堂々と駒組みが出来るようになりました。その展開でも一局ですが、ゴキゲン本来の奔放な戦いが出来なくなってしまいます。
そしてある日、寝る前のベッドで閃きました。「△62玉とせず△72金とすれば5筋が交換できるのでは?!」
ただそれだと駒組みにやや難があるのですが、△72金の後、△62銀〜△61玉〜△71玉〜△82玉と行けば普通の形になります。
これは始め、控え室でプロの意見を聞いてみました。すると「へぇ〜」という反応。あっそう、程度でした。
そこで研究会やVSで試したところ、なかなかの手応え。そこで公式戦でも指してみたのですがあえなく敗戦。あっさりその命はついえるかと思いました。
ちなみにこの対局の終わった後に、私が指す前から奨励会の竹林二段が指していた、という事を聞き驚きました。こんな変な事を考える人が他にもいるのか、と(笑)。
その後しばらくして鈴木八段が採用し、驚きました。しかしその対局もゴキゲンが負け、お終いかと思われたのですが、その鈴木八段がもう一度採用して快勝してから火がつき、よく指されるようになりました。
そして今回の竜王戦で佐藤棋聖が挑戦者決定戦に続いて採用。どうやら優秀なのかもしれませんね。実際にこの△72金の形は後手が勝ち越していて、データからもその優秀性がうかがわれます。
しかしどうもこの△72金に有効そうなのが、竜王戦でも指された▲66歩。これは△55歩なら▲67銀として
何としても5筋を交換させない、というもの。
この戦いは▲66歩のバランスが悪いか、△72金のバランスが悪いか、そこが焦点。
データ上は△72金に対して一番勝っていて(先手の勝ち越し)、有力な感じが伺えます。そしてもちろん渡辺竜王も有力とみていて、この大事な一番で採用したのでしょう。
さてこの竜王戦はどうなるでしょう。私も非常に楽しみです。
衛星放送でも放送があります。詳しくはこちらで
是非注目して見ていただきたいと思います!!
それではまた
【関連する記事】
まだまだ廃れない戦法というよりも、逆にドンドン広まっている感じがします。
私が子供の頃は、大山先生の中飛車に魅了されていましたが。
ふーむ、奨励会で竹林二段が指していたのを知らなかったというのが意外でした。何か今の時代はそういうのがすぐ伝わっているような気がしてまして(^^;ゴキゲンは良く指すので試したいのですが、最近将棋が指せない・・・_| ̄|○(佐藤棋聖の96歩は将棋世界の勝又教授の講座に載ってから24で圧倒的に増えたような気がします。やっぱりプロの解説は偉大ですね。)
88角の筋は前からあるのではないかと思ってましたが、まさか指されるとはw(第四図で▲66歩△88角です。5筋は交換できそうですが・・)
今、64手目55歩が指されたところですが、どうでしょうか。私は佐藤棋聖が若干良さそうな気がしますが、先手玉も堅いので実戦的には大変そうですね。
基本的には「ゴキゲン」は指さないのですが、
こうして解説頂くと指したくなります。
感動ものです。本家遠山流としては奮起していただかなくては(笑)
かなり苦しい展開でしたが、佐藤棋聖は将棋に負けて勝負に勝った、いえ、将棋に勝った、ですね(笑)
渡辺竜王は痛い敗戦でしょう。タイトル移動は濃厚
かもしれませんが、4タテだけは許したくないでしょうから巻き返しを期待です。
解説はわかりやすくて参考になります。
(知っていましたが笑)
遠山四段にはいずれ本も書いていただかなくては(笑)
読売新聞の解説も楽しみです。
しかし、今回富山(しかも、僕の住んでるところに近い宇奈月で!)行われているにもかかわらず、仕事で大盤解説にいけなかったのが非常に残念です(くぅ〜…)
めったに無い、プロ将棋に接することができるチャンスだったのですが。
会社の忘年会が、会場の延対寺荘である予定なので、そのときに雰囲気だけでも味わってきたいですね(笑)
早く将棋世界で連載していただきたいものです。本が出版されたらソッコー購入します。
いしのひげさん。
実はこの内容、将棋世界の勝又先生の講座に紹介されてました。よろしければそちらもご覧下さい。
教えていただいてありがとうございます。
それは、将棋世界の7月号あたりでしょうか?
あらためて読みなおして見ます。
ただ、遠山流についての詳しい解説はまだあまり見ないように思います。
大山先生の中飛車は私もよく並べました。
じゃがりんぽさん>全然知りませんでした。それだけマイナーな指し方だったのでしょうね。
勝又教授の講座以降24で▲96歩が増えた、というは面白いデータですね。きっと24で指している人は将棋世界を読んでいらっしゃる方が多いのですしょうね。
それにしても竜王戦は難しい将棋でした。竜王の解説はとても丁寧でスゴイと思いました。
一酔斎さん>是非指してみて下さい!将棋の違った一面が見られるかもしれませんよ。
本ですか。ブログが本になったりしたら嬉しいですね〜。
忍者福島さん>富山でしたので、もしかしたら現地に行かれているかな、と思っていました。仕事では、、しょうがないですね。タイトル戦の会場というのは趣きある所が多いので、是非足を運んでみてください。
いしのひげさん>いえいえ、そんな大したものではないですよ(汗)遠山流はまだまだ未解明な所が多すぎて、詳しい解説が出来るところまで理解が深まっていないのだと思います。